2023/12/05
東大生と森林管理を学ぶ「木もれびプロデューサー」【Present Tree from 熱海の森】で階段づくりに挑戦!

東京大学の環境問題教育プログラム「One Earth Guardians(以下OEGs)育成プログラム」を受講する学生たちが、熱海市で森林管理を担う地域のコミュニティづくりを目指そうと立ち上げた「木もれびプロデューサー」プロジェクト。この11月には木もれびプロデューサーを目指す方向けの「講習」「演習」「研修」が行われました。今回は、総まとめである「研修」編をお送りします。プレゼントツリーの植栽地「Present Tree from 熱海の森」を舞台に、実際に森の中で階段づくりを行いました!

「Present Tree from 熱海の森」と「木もれびプロデューサー」

朝9時、熱海駅に「木もれびプロデューサー」を目指す参加者が集合しました。熱海近辺にお住まいの方々、東京から来た方、学生・先生・スタッフ合わせて9名が、車2台に分乗して「Present Tree in 熱海の森(以下「熱海の森」)」を目指します。

「熱海の森」は、約半世紀にわたって放置された里山林。かつて熱海には薪や炭の原料となる木材を採取するための薪炭林が広がり、豊かな森林が人々の生活を守っていました。しかし、急峻な地形であることから管理の難易度が高く、日本で林業が衰退すると共に手入れが行き届かなくなり、現在では放置された旧薪炭林が優占している状況です。

熱海の森を明るく豊かな森に再生するため、土砂流出防備保安林に指定された7.5 haの森を認定NPO法人環境リレーションズ研究所が引き取り、2010年からボランティア中心の植林を行っていた場所が、下多賀にある「熱海の森」です。しかし近年は、関係者の高齢化やコロナ禍などの理由から活動を停止していました。

「熱海の森」2013年の植樹の様子

そんな折、環境リレーションズ研究所が支援している東京大学のOEGs育成プログラムの学生が中心となり、熱海の森の再生に取り組む熱海の森プロジェクトが2022年に立ち上がりました。このプロジェクトの一環で、地域住民や地域外市民から成る森林管理を担うコミュニティを熱海市につくろうと、始まったのが木もれびプロデューサー」プロジェクトです。

※「木もれびプロデューサー」は令和5年度の林野庁補助事業として採択され、「国民参加による植樹等の推進対策」サポート体制構築事業の一環として行われているプロジェクトです。

急な山道を1時間歩いて「熱海の森」へ

「熱海の森」までは、伊豆スカイライン脇にある「鹿ヶ谷公園」に車を停め、1時間ほど歩いて現場へ向かいます。ちなみにトイレもないので、向かう前にコンビニで済ませます。現代生活に慣れていると「え…?」と思ってしまいますが、ここは山の現場。登る前に簡単に参加者全員の自己紹介をして、登山の注意点などを共有し、熱海の森を目指します!

歩き始めてすぐ、小さな沢を渡り、今回の行程で最難関である急峻な斜面をよじ登っていきます。急峻だとは聞いていましたが…とにかく必死に斜面に食らいついていくしかない状況。なんとか足を前へ運びつつも、すぐに息が上がってきました。

登ってからは尾根伝いに登ったり下ったりしながら、道なき道を進んでいきます。道すがら、引率の東京大学樹芸研究所齋藤先生が、鹿が体をこすりつけた跡や樹皮をかじった跡、イノシシのねぐらや足跡などをレクチャーしてくれました。生き物の気配がムンムン漂う森の中…大きなカエルにも会えました。

今回の熱海訪問では、どんぐり拾いも目的の一つだったのですが、シイやカシの木はあれどなかなかどんぐりに出会えません。今年は森の作物が不足しており、クマが人里に降りてきている…というニュースも報じられています。気候変動が、動植物にも大きな影響を与えていると考えられます。

ちなみにキノコの生えている樹は、枯れてしまっている証拠。倒木の危険がありますし、体を支えようとつかむと崩れてしまうこともあります。キノコの生えている樹を見つけたら、近寄らないのが一番です。

先生や学生さんの話を聞きながら1時間ほど歩いて行くと、「熱海の森」現場へ到着です。頂上からは、頑張って歩き切ったご褒美のようなキレイな景色!

お天気にも恵まれて、下多賀の街並みと相模湾を望むことができました。ちょうどお昼だったので、この絶景をおかずに各々お弁当を広げます。美味しい山の空気を吸いながら、青い海と青い空を眺め、自然の中でごはんをいただくことの贅沢さたるや。食事をしながらおしゃべりにも花が咲き、この厳しい行程を踏破した者同士の不思議な連帯感も生まれていました。

体力も頭も使う「階段づくり」

食事のあとは、いよいよ作業です! 頂上から少し下った場所にある作業小屋までの道に、みんなで階段を作っていきます。

階段を作るには、横木と杭にする木が必要です。落ちている木の枝や立ち枯れてしまった木を集めて、のこぎりで丁度よい大きさに切り出していきます。チェーンソーがあれば作業が早かったのですが、今回は身近な道具を用いて管理するというコンセプトのため、のこぎりを使用。のこぎりは体力勝負なので、若者たちが大活躍していました!

シャベルで斜面の土を掘り、階段状に平らにします。ここの端に横木を渡し、さらにその下の土をシャベルで削って、また段を作ります。この横木がグラグラ動かないようにするために、2箇所に杭を打ちます。

杭をつくるには、木の先を鉛筆のように尖らせる必要があります。齋藤先生のナタさばきの見事なこと…! 固くて削れず手こずっていた木が、齋藤先生の手にかかると、まるで鉛筆!です。

この杭を、大きな木槌で土の中へ打ち込みます。最初はなかなか入っていかなかった杭ですが、みんなが徐々にコツをつかみはじめたことでスピードアップし、ぐいぐい刺さっていいきます!

石を詰める作業は、意外と頭を使います

さらに横木をしっかりと固定するために、杭と横木と下の段の間に石や落ち葉を詰めていきます。雨が降ったときに、雨水がこの石や落ち葉を伝って土に浸透していくことで、土砂が流れ出すのを防ぐ効果もあります。確かにこれだけ斜面がきついと、土砂が流れ出ないための施策は安全上でも大切ですね。

1時間半ほど作業して、長い斜面の3分の1程度に階段を設置することができました! みんなで作った階段で、集合写真をパチリ☆

そして18日の演習で作った「土砂受け箱」も、斜面に設置します。これは雨が降った時に、どのくらいの土砂が流れ出しているのかを計るもの。今後の研究材料として使うそうです。

「木もれびプロデューサー」の育成は、まだ始まったばかり

山の夕暮れはとても早い。まだ14時半だというのに、だいぶ太陽が傾いてきました。暗くなる前に帰らなくては! 斎藤先生の後について、また1時間ほど山を下っていきます。行きもアップダウンが激しかったですが、帰りなのに登り坂も多くて、「下りだからラク」という印象は全くありませんでした…。

最後の急斜面を下りて沢を渡ると「ついに帰ってきたー!」と思わずガッツポーズが出ました。駐車場まで戻ってきてアスファルトを踏んだときの固さにビックリ。ここで閉会のご挨拶を行い、「木もれびプロデューサー」の研修は終了です。参加者さんからは、「楽しかった! ぜひ東大の皆さんで熱海の森を盛り上げてほしい」「初対面でしたが協力して作業でき、とても良かった。森の現状を知ることができました」といったご感想が寄せられました。皆さん、本当にお疲れ様でした!

今回「熱海の森」へ入ってみて、森の中で作業することの楽しさ・大変さを存分に感じることができました。また、森という大自然の中は野生動物や植物たちのテリトリーであり、人間という存在がいかにちっぽけであるかも感じました。ちっぽけではあるけれど、森の中で光っていたのは、参加メンバーの知恵と体力をどう掛け合わせてていくかというチームワークと、現地にあるものと持ってきたものでいかに工夫するかという対応力。検索すればなんでも正解が出る、分かった気持ちになってしまえる現代ですが、森に入ることで逞しく磨かれる感性や技術がある。そうして磨かれた感性や技術が、やがては日本の森を守り育てていく人々の礎になることでしょう。

こちらで今年度の「木もれびプロデューサー」プロジェクトは終了しますが、これからも熱海の森を舞台にOEGs育成プログラムの活動は続きます。次はどんな活動が行われるか、どうぞお楽しみに♪

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